コラム

【コラム】IT経営カンファレンス京都2023の開催にあたって

 3月7日に、京都市 中小企業デジタル化・DX成果事例発表会:IT経営カンファレンス2023inKYOTOが開催されます。ITコーディネータ京都にとっては1年に1度の大イベントですが、京都での中小企業デジタル化・DX推進支援にとっても一大イベントに他なりません。

今回は、IT経営カンファレンス京都2023開催の目的、その意義について書きます。

IT経営カンファレンス京都2023の特徴

 IT経営カンファレンス京都2023には、2つの特徴が有ります。

第1の点は、京都市の「中小企業デジタル化推進事業」と「地域DX人材育成推進・普及啓発事業」という2つの事業の実施報告会として開催されることです。デジタル化推進事業は3年前から実施されており、地元中小企業のデジタルを活用した業務改革などを支援してきました。DX人材育成推進・普及啓発事業は、DX推進に取り組む企業を支援し人材育成などに取り組む事業です。これら2事業の実施内容を報告すると共に、事業に取り組んだ中小企業の事例発表が行われます。

デジタル化推進事業では、ITコーディネータ京都が専門家派遣に取り組み30名余のITコーディネータが関わりました。また、DX人材育成推進・普及啓発事業は、京都高度技術研究所(ASTEM)様が中心となって実施され、ITコーディネータ京都は参加した企業への専門家派遣で参画しました。

特徴の第2は、デジタル化とDXの2本立てとなっている点です。

昨年度までのIT経営カンファレンス京都は、デジタル化推進事業の実施報告会として開催されてきましたが今年度は前述の2事業の報告会として開催されます。デジタル化とDXはおなじもの、あるいはデジタル化の延長がDXと捉えられることが多かったですが、この2つは本来全く別の事業です。デジタル化の単純延長上にはDXは実現できません。

 今回のカンファレンスでは、デジタル化に取り組んだ成果を発表すると共に、DXに挑戦するにあたっての課題を示していきます。

今回のカンファレンスの中心テーマはズバリ、「デジタル化からDXへの挑戦」です。デジタル化に取り組んだ企業が、どのような企業変革を通してDX推進を行っていくかがテーマとなります。

デジタル化とDXの違い

 経済産業省は、DXを以下のように定義しています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」(デジタルガバナンス・コード2.0)

また、デジタル化(デジタライゼーション)は、個別の業務・プロセスのデジタル化、製品へのデジタルサービスの付加と位置づけています。

既存の業務にデジタル技術を導入して改善することは、DX推進の土台となりますが、そこにとどまっていては新たな顧客価値提案(DX)にはならないのです。

この両者の違いを明らかにするために、比較表を作成しました。

デジタル化とDX(デジタルトランスフォーメーション)の違い

比較項目デジタル化 (Digitalization)DX (Digital Transformation)
目的既存のプロセスをデジタル技術を用いて効率化すること。ビジネスモデルや業務プロセスを根本的に変革し、新たな価値を創出すること。
実施責任者IT部門が主導することが多い。経営層が主導し、全社的な取り組みとなる。
会社としての組織的対応特定のプロセスや部署に限定されることが多い。会社全体の文化や組織構造の変革を伴う。
必要な人材ITスキルやデジタルツールの操作が得意な人材。ITスキルに加え、変革を推進するリーダーシップやイノベーションを生み出せる能力を持った人材。

 デジタル化は、主に既存の業務プロセスのデジタル技術による改善や効率化に焦点を当てています。これに対して、デジタルトランスフォーメーション(DX)は、デジタル技術を活用してビジネスモデル自体を変革し、企業が直面する根本的な課題に対処し、新しいビジネスチャンスを創出することを目指しています。DXの取り組みは、組織全体の文化や思考方式の変革も必要とし、そのためには経営層の強いリーダーシップと組織全体の協力が不可欠です。

中小企業の事例で考えるデジタル化とDXの違い

 皆さんは、株式会社陣屋をご存じでしょうか?

「陣屋コネクト」というクラウド型旅館業向け統合システムを開発・販売していることで有名な老舗旅館です。この旅館は統合システムの自社開発により業務の効率化、PDCAサイクルの高速化等を実現しました。ここまでなら従来のデジタル化と変わりません。この旅館のすごいのはその先です。

陣屋さんは、自社の強みは卓越した顧客サービスであることを社員全員で共有し、それを実現するために情報の見える化・情報共有を進め、徹底した業務効率化を通じて顧客との接点を増やしていきました。ポイントは、経営改革を通じてサービスの質を向上し顧客満足度を高めたことです。

「陣屋コネクト」という統合システムを導入すれば、旅館業でのDXが実現できるような記事を見ることがありますがそれは間違いです。自社の進むべき方向性についての社員の共通認識が無いと、”宝の持ち腐れ”に終わってしまいます。

中小企業だからこそDXの推進を!

 中小企業のDXはハードルが高いという意見もありますが、私は逆に中小企業だからこそDX推進が出来ると思っています。一般に中小企業は、経営資源の制約、経営組織の未成熟など制約が多いと言われています。他方で、迅速な意思決定が出来る、経営者のイニシアティブが強く小回りがきくなど変化への対応力が評価されます。

◆参考文献・URL

・METI DX:経済産業省のデジタルトランスフォーメーション特設Webサイト

https://www.meti.go.jp/policy/digital_transformation/index.html

・経済産業省:DX認定制度(情報処理の促進に関する法律第三十一条に基づく認定制度)

https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-nintei/dx-nintei.html

・中小企業庁:クラウドサービス活用による旅館改革への挑戦 2024/2/26アクセス

https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/smartsme/2017/170419smartsme03B.pdf

■執筆者プロフィール

藤原正樹(フジワラ マサキ)

ITコーディネータ京都 副理事長

京都情報大学院大学 教授

宮城大学 客員教授

博士(経営情報学) 中小企業診断士 ITコーディネータ

e-mail:m_fujiwara@kcg.ac.jp

Web: https://www.fujiwaralab.jp/

デジタルガバナンス・コード説明会に参加して ~中小企業のDX推進の課題~

 先日、経済産業省主催の「デジタルガバナンス・コード」実施の手引き地域別説明会に参加しました。
「デジタルガバナンス・コード」は、一般には余りなじみがない用語ですが、中小企業のDX:デジタル・トランスフォーメーションを推進するにあたって重要な考え方ですので共有したいと思います。

デジタルガバナンス・コード2.0とは?

経済産業省のデジタルガバナンス・コード2.0は2022年9月に策定された、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するための指針です。経営ビジョンの策定、デジタル人材の育成・確保など、企業がDXを推進するために必要な事項を10の原則としてまとめています。
デジタルガバナンス・コード2.0は、2020年に策定されたデジタルガバナンス・コードを更新したもので、デジタル人材の育成・確保の重要性を明記、中堅・中小企業向けの取組を支援するなどが追加されています。

参考:「デジタルガバナンス・コード2.0」を策定しました:経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2022/09/20220913002/20220913002.html

DXとは単なるデジタル化を指すのでは無く、新たな顧客価値を創造していくことであり、そのために組織や企業文化を変革していくことに他なりません。
DXを推進する上で、“デジタル化”は2つの側面で捉えられます。ひとつは、新たなデジタル環境の登場による社会環境・企業の競争環境の変化です。新しいタイプのサービスが登場し、既存ビジネスが危機に陥っている例が多くあります。
もう一つは、デジタルを活用した企業の変革です。新しいデジタルの登場は、企業にとって新しいサービスや商品を生み出すことを可能にしています。しかし、デジタルを活用した新しい商品やサービスを生み出すためには、企業自身が変わることが求められます。新たな企業ビジョンやビジネスモデルを構想し、それを実現するために会社が変わっていくことが求められます。商品・サービスや仕事のやり方はそのままでデジタル化することは比較的容易になってきましたが、新たな顧客価値を創造していくことは容易ではありません。
デジタル化の2つの側面と表現しましたが、実はこの2つは密接に関連しています。デジタル化が生み出した環境変化に対応し、企業が生き残っていくためにはDXが不可欠になっているのです。“DX or Die:DXの推進か企業の死か”という極端な意見まであります。

中小企業でのDX取り組みに必要な点

 安価で高機能のWebサービスやシステムの登場により、中小企業でもデジタル化に容易に取り組めるようになりました。導入費用や操作面でも導入に向けたハードルはずいぶん下がりました。
しかし、DXへの取り組みは容易ではありません。DX推進には企業の変革が不可欠ですので、デジタル化の延長上には実現出来ません。
DXの推進には、
1.企業がめざすビジョン、ビジネスモデルを構築し、社内で共有する。
2.それを実行するための戦略を立案し、方向を示す。
3.実施のための組織とそれを担う人材確保・育成を進める。
このような活動が必要となります。

図:中堅・中小企業のDX実現に向けたプロセス

出典:「中堅・中小企業向けデジタルガバナンス・コード実践の手引き2.0」、経済産業省(2023)

 デジタルガバナンス・コードは、中小企業がDXを推進する上で指針となります。DXへの取り組みは、ほとんどの企業にとって初めての試みですので何らかの指針が必要となります。先にも書きましたが、中堅・中小企業においてもデジタル化への取り組みは進んでいますが、デジタル化の延長上にDXは実現できません。

京都での中小企業デジタル化への取り組み

 京都では、2020年:京都市「中小企業等IT利活用支援事業」、2021年・2022年:京都市「中小企業デジタル化推進事業」注)を通じて、500社以上の中小企業がデジタル化に取り組んできました。今年:2023年も百数十社の中小企業がデジタル化に取り組んでいます。

新たなWebサービスを活用した業務の効率化・省力化への取り組み、Webサイトの構築を通じた顧客接点の拡大、新規事業の立ち上げなどに取り組んできました。

これだけ多くの中小企業がデジタル化に取り組んでいることは画期的なことです。ITコーディネータ京都は専門家派遣を通じて、これらの事業に関わり地元中小企業のデジタル化を支援してきました。

また、IT経営カンファレンス京都(2020~2022)で、京都市「中小企業等IT利活用支援事業」、「中小企業デジタル化推進事業」の事例報告を行い、その成果の広報に努めてきました。

専門家による伴走支援の重要性

 中小企業は、人材や資金面などで大企業に比べ経営資源の制約があります。他方で、経営者の素早い意思決定で環境変化に対応可能など、DXの推進にあたってのプラス側面も多く持っています。ただ、中小企業の経営資源だけで独力で行うのは難しい場合があり、その時に必要なのが外部の専門家による伴走支援です。

 DXの伴走支援者には、デジタル(D)の知見に加えて、それ以上に経営改革(X)の知見が求められます。ITコーディネータは、中小企業のDX推進の伴走者として最適です。

DX推進の伴走支援は、最新のシステム導入支援ではありません。経営者の方に会社の未来を考えてもらい、将来のビジョンを実現するためのデジタル活用法を提案しながら、会社の変革を支援することに他なりません。

 中堅・中小企業においても本格的にDX推進が課題となる今こそ、ITコーディネータの出番です。

【注釈】

注:京都市「中小企業デジタル化推進事業」

 京都市の中小企業者のデジタル化を推進するため、専門家による経営課題、業務課題の分析、課題解決に向けたデジタル化計画の検討からシステム導入までの一連の事業を支援する補助事業です。2021年度から実施されており、今年度も含め3年間で約400社が支援を受けています。2020年度に実施された「中小企業等IT利活用支援事業」と共に、中小企業のデジタル化推進に大いに貢献しています。

【参考文献】
・経済産業省(2022)、「デジタルガバナンス・コード2.0」
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dgc/dgc2.pdf
・経済産業省(2023)、「中堅・中小企業向けデジタルガバナンス・コード実践の手引き2.0」
 https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-chushoguidebook/contents.html

■執筆者プロフィール

藤原正樹(フジワラ マサキ)

ITコーディネータ京都 副理事長

京都情報大学院大学 教授

宮城大学 客員教授

博士(経営情報学) 中小企業診断士 ITコーディネータ

e-mail:m_fujiwara@kcg.ac.jp

Web: https://www.fujiwaralab.jp/