最近、中小企業支援関係団体の中で、「伴走支援」という用語がよく使われます。従来の中小企業支援よりも経営者に“寄り添った”支援を強調する考え方です。従来の中小企業支援がややもすると短期的で画一的な支援にとどまり、支援される側の自主的な努力に依存する面が強かったことへの反省に上に提唱されています。
この伴走支援の理論的な背景となっているのが「プロセス・コンサルテーション」という考え方です。今回のコラムは、伴走支援と従来のコンサルティングの違いを示していきます。とりわけ、DX推進支援においては「伴走型」の支援が強調されています。ITコーディネータが中小企業のDXを支援する際、従来型のITコンサルティングではなく伴走型の支援が求められます。
伴走支援=プロセス・コンサルテーションの特徴を示すキーワードは、「専門家による側面的支援」と「専門家の継続的な関与」などです。プロセス・コンサルテーションは、企業の自主的な問題解決能力を引き出し、持続的な成長を促していくアプローチです。この知識と技法を理解することで、中小企業にとって実践的で長期的な支援が出来るようになると思います。
プロセス・コンサルテーションと従来型コンサルテーションの違い
プロセス・コンサルテーションの特徴を理解すると、従来のコンサルティングと伴走支援の違いがよく解ります。
プロセス・コンサルテーションの提唱者であるエドガー.H.シャインの著書:「人を助けるとはどういうことか」を引用してその特徴を示します。シャインは支援実践のあり方を3つに区別し、プロセス・コンサルテーションの特徴を示しています。
(1)情報やサービスを提供する専門家として役立つ人
企業が特定の問題やニーズを認識していて、その解決策や支援が必要なときに、外部のコンサルタントや専門家に依頼する形で支援を求めるものです。従来型のコンサルテーションに該当します。
(2)診断して処方箋を出す医師
企業が自身の問題を明確に理解していない、または適切な対策を知っていない場合に適用されます。コンサルタントが問題の診断を行い、その結果をもとに適切な解決策を提案します。中小企業支援では、「診断・指導」に該当します。
(3)公平な関係を築き、どのような支援が必要か明らかにするプロセス・コンサルテーション
この役割の支援者の特徴は、顧客企業が解決にたどり着くプロセスを支援する点です。コンサルタントは問題の「答え」を提供するのではなく、顧客企業が自ら問題を発見し解決できるように支援します。持続可能な変革を促し、顧客企業の学習や自己改善を促進するのが特徴です。
従来型のコンサルテーションである(1)、(2)と(3)プロセス・コンサルテーションの違いを表にまとめました。
表1 従来のコンサルテーションとプロセス・コンサルテーションの違い
比較項目 | 従来のコンサルテーション | プロセス・コンサルテーション |
専門家の役割 | 解決策を提案 | ファシリテーターとして支援。顧客企業と共に問題解決に取り組む。 |
顧客企業の関与度 | 受動的 | 能動的 |
課題解決方法 | 専門家が具体的な解決策を提示 | 顧客企業自らが問題を発見・解決 |
持続性 | 短期的な成果を重視する | 長期的な組織の成長と持続的改善が目指される |
DX推進支援における伴走支援の役割
中小企業のデジタル化支援においては、従来型のコンサルテーション=専門家型のコンサルテーションが有効だが、DX推進においては伴走支援=プロセス・コンサルテーションが必要だと言われています。
デジタル化においては、省力化や既存の業務プロセスの改善など目的やニーズが明確な場合が一般的です。そのため、専門家が特定のツールやサービスを提案することで比較的短期間に成果を上げることが出来ます。
それに対して、DX推進においては組織全体の変革が必要となります。単なるシステム導入にとどまらず、企業全体のビジネスモデルや業務プロセスの根本的変革を目指します。組織全体の意識改革やプロセス改革が不可欠です。
表2 デジタル化とDX推進における専門家の役割比較
比較項目 | デジタル化支援の専門家 | DX推進支援の専門家 |
役割 | 特定のツールやシステムの導入と活用支援 | 組織全体のビジネスモデルや業務プロセスの変革支援 |
顧客企業への関与 | 専門知識の提供による指導・教育 | 顧客企業の自主的な学習とプロセス改善のファシリテーション |
目標 | 業務の効率化と生産性の向上 | 企業の競争力向上と新たな価値創造 |
求められる能力 | 専門家としての技術的知識と迅速な導入能力 | 組織全体の巻き込みと企業変革の促進を促す指導力 |
この比較表(表 2)の通り、デジタル化支援の専門家は具体的で短期的なシステム導入に集中しているのに対して、DX推進支援の専門家は長期的な組織変革と戦略的な成長を支援する役割を担っています。
表2の通り、デジタル化とDX推進は、その目標とする点も実現方法も異なります。そのため、デジタル化の延長上にDXは実現できません。デジタル化を推進していけばDXが実現できるという見方もありますが、デジタル化とDXは別物と考えた方が良いです。
2024年3月に経済産業省から「DX支援ガイダンス~デジタル化から始める中堅・中小企業等の伴走支援アプローチ~」が発表されました。その特徴は、中堅・中小企業のDX推進における支援機関の役割を示している点です。とりわけ、中長期的視点に立った伴走支援の重要性が示されています。さらに、DX支援人材育成にも言及している点が特筆できます。
ITコーディネータもその支援機関の一翼としての取り組みが期待されています。
◆参考文献
・中小企業庁、他「経営力再構築支援 伴走支援ガイドライン」、2023年6月.
https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/keiei_bansou/guideline.pdf
・経済産業省:「DX支援ガイダンス~デジタル化から始める中堅・中小企業等の伴走支援アプローチ~(概要版)」、2024年3月.
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/dx/dxshienguidance_gaiyou.pdf
・エドガー・H・シャイン、金井壽宏:監訳、『謙虚なコンサルティング』、英治出版、2009年.
◆執筆者プロフィール
藤原正樹(フジワラ マサキ)
ITコーディネータ京都 副理事長
京都情報大学院大学 教授
宮城大学 客員教授
博士(経営情報学) 中小企業診断士 ITコーディネータ
e-mail:m_fujiwara@kcg.ac.jp