もう驚いているだけじゃない。―AIが日常に溶け込んだ世界の始まり

OpenAIは2024年9月25日、ChatGPTの新機能「Advanced Voicemode」をリリースした。(※1)

 

応答速度が上がって人間同士の自然な会話のようになったし、話の途中に割り込んで話したり、感情を読み取ったりもできる。筆者もやりとりをしていると人間と話しているような感覚になった。5月に開発が発表(※2)されて以来待ち望まれていた機能だったため、生成AI界隈の興奮は半端ではなく、当日はSNSでも盛んに投稿された。

 

筆者は学校の授業やセミナーなどの冒頭でデモをしてみた。ChatGPTをまだ触ったことがない人、生成AIの元を知らない人たちから「へぇー、すごいですねぇ……」と驚きの薄い反応が返って来たことに、逆に驚いた。

 

画像生成AIの「Flux.1(※3)がリリースされた時(24年8月)と似ているな、と思った。「Midjourney(※4)」や‎「Stable Diffusion(※5)」に比べて格段の能力を持った「Leonardo」を一般の人に見せた時はかなり驚かれたのに、それよりもさらにリアルな画像を生成できるFlux.1を見せても、さほど驚かれなかったのである。

 

「向こう側」から身近なものへ

生成AIのみならず、すべての技術革新はまず「向こう側にあるもの」として認識される。ChatGPTもサービスにアクセスしたりアプリをダウンロードしたりする段階から始まった。OpenAI社のウェブサイトにアクセスしてID登録をし、2段階認証までして使う必要があった。しかも英語だったので、途中で諦めた人もいただろう。

 

それが後にID登録なしで使えるようになり、デスクトップアプリをインストールしておけば「Option+Space」で立ち上がるようになった。ライバルのGeminiはChromeブラウザの検索窓に「@」と入れれば立ち上がる。WindowsPCに至ってはPCそのものに物理キー(※6)があり、押せばCopilotが立ち上がる。Offece365とも連携していて、適正なライセンスと設定があれば、WordやExcelを使用中にリボンにCopilotが出てくる。(※7)

 

ワンアクションで使えるようになり、より身近になることで、仕事や生活に溶け込んでくる。性能はますます高くなって音声や画像などの生成物はよりリアルになり、本物と見分けがつかなくなる。そうなれば一般の人にとって生成AIはもう驚きでも何でもなく「日常」となるわけである。そのうちワンアクションすら必要なくなり、「生成AIを使う」という感覚は消えていくことだろう。

 
たとえば、インターネットもそうだ。もう「インターネットを使っている」という意識は希薄で、空気のように存在していると言っても違和感はないだろう。AIも、PCやスマートフォンを使っていなくても機能するようになる。イヤホンがAIを搭載するようになれば、キーボードもスクリーンのフリックも必要なく、音声でAIと対話できるようになる(Google Pixel Buds Pro 2はそれに近いが、まだスマートフォン本体が必要)。(※8) 音声レベルが飛躍的に発達することで仕事や生活に自然に染みだし、わざわざ操作を(キーボード操作も!)覚えなくても機能を使うことができる。
 
次回このコラムを書くときには、今書いていることが完全に陳腐化して、当たり前の話として生活に溶け込んでいる――。そんなスピード感で進んでいることを理解しておいたほうがいい。

「目」や「耳」のAIを指示する?

生成AIの進化は、単なる技術の進歩にとどまらず、私たちの日常生活や仕事のあり方を根本から変えつつある。ChatGPTのAdvanced Voicemodeの登場で人間とAIのコミュニケーションはより自然で直感的なものとなり、言語の壁を越えた対話が可能になる。

 

応用範囲は急速に拡大している。教育分野では、個別化された支援や即時フィードバックが可能になり、学習効果の向上が期待される。ビジネスの世界では、データ分析や意思決定支援、カスタマーサービスの向上など、多岐にわたる活用が進んでいる。医療分野においても、診断支援や新薬開発の加速などへのAIの貢献が注目されている。

 

人類の平均IQを100とした時、ChatGPT o1 PreviewのIQは120を超えたとされている。生成AIがプログラムそのものを、自らの意思で作り出すのもそう遠くない。AIが特別なものではなく、電気や水道のようにインフラの一部となる時代が来るかもしれない。OSやデバイスに組み込まれていくことで「目」や「耳」を持ち、人類の知能をはるかに超えた生成AIが、見たもの聞いたものを推論することで、別の世界は始まったと考えている。

■執筆者
積 高之

 

プロフィール

京都華頂大学准教授   京都積事務所 代表
WACA(ウェブ解析士協会)理事・事業推進部長/ITコーディネータ京都理事/エボラニ株式会社CMO/関西学院大学非常勤講師/上田安子服飾専門学校非常勤講師 /関西学院大学経営戦略研究科研究員


 

 

経営管理修士(MBA) 関西学院大学大学院経営戦略研究科卒/チーフSNSマネージャー/上級SNSエキスパート/上級ウェブ解析士/ITコーディネータ・業務DX推進士/SNSトレンドエグゼクティブマーケター/生成AIパスポート保有/地域DXプロデューサー/LINE Green Badge Advanced/Google AI Essentials/デジタル庁デジタル推進委員/Google AI

 

広告・ブランディングの職務を経験後、コンサルタントとして独立。大手子供服SPA、酒販小売業チェーン、保険代理店などの顧問・コンサルタントを歴任。地方自治体・商工会議所等の講演多数

 

著書 ウェブ解析士協会公式テキスト2024

          SNSマネージャー公式テキスト2024

 

2021年ウェブ解析士アワード

Best of the Best 2021受賞

 
  1. https://x.com/OpenAI/status/1838642444365369814
  2. https://openai.com/index/hello-gpt-4o/
  3. https://blackforestlabs.ai/
  4. https://www.midjourney.com/
  5. https://ja.stability.ai/stable-diffusion
  6. https://www.microsoft.com/ja-jp/windows/copilot-plus-pcs
  7. https://adoption.microsoft.com/ja-jp/copilot/
  8. https://store.google.com/jp/product/pixel_buds_pro_2