デジタル化の進展に伴い、多くの企業や団体がIT導入や業務の効率化を進めています。中小企業を中心に、ITツールの導入や活用に関する課題が浮き彫りとなる一方、補助金や助成金を活用することで導入を後押しし、変革を進める例が増えています。しかし、補助金だけでなく、専門家であるITコーディネータが同席し、適切な支援を行うことが、より効果的であったという結果が、「京都市デジタル化推進事業に関するアンケート」の結果から明らかになりました。本コラムでは、その結果をもとにITコーディネータの重要性と、企業がデジタル化に成功するための要素について考察します。
京都市デジタル化推進事業に関するアンケートの背景と目的
このアンケートは、京都市デジタル化推進事業に採択された企業や団体を対象に実施されました。目的は、補助金がどのように活用され、どのような効果をもたらしたかを把握し、さらに専門家として参画したITコーディネータの役割がその成功にどの程度寄与したかを分析することでした。回答者の多くは中小企業の経営者やIT担当者で、業種や企業規模は多岐にわたります。
本事業の効果と課題
アンケート結果では、122件中の80件の企業が本事業で取り組んだデジタル化・DXの効果について「業務の効率化/生産性が向上した」と回答しており(図1)、本事業が中小企業のデジタル化推進において大きな役割を果たしていることが示されました。
また、専門家と作成したデジタル化計画についても122件中109件の企業が効果があったと回答しており(図2)、専門家の知見も高く評価されています。
しかしながら、本事業だけでは十分ではないという声もあります。例えば、「導入したものの、その後の運用が難しかった」「期待した効果が出なかった」という意見が一定数見受けられました。これは、単にツールを導入するだけでなく、運用に対する具体的なサポートや導入後のフォローアップが必要であることを示唆しています。
ITコーディネータの役割の重要性
こうした中で、アンケート結果の中で特に注目すべき点は、デジタル化・DXを推進するために必要な支援として「補助金と専門家の指導の両方」と122件中71件の企業が回答しました。(図3)IT導入に際して、金銭的支援に加え、技術的支援や業務フローの改善、人材育成といった幅広い視点でのサポートが求められていることが示唆されました。これは本事業に採択された企業が専門家であるITコーディネータを評価しているとも取れる内容です。
ITコーディネータは、単なるシステム導入の専門家ではなく、企業の現状を正確に把握し、必要なソリューションを提案する役割を果たします。例えば、企業の課題や目指すべき方向性を理解した上で、最適なITツールを選定するだけでなく、それをどう業務に組み込むべきか、従業員のスキル向上をどのように支援するかといった点にまで踏み込んでアドバイスします。このように、IT導入の全プロセスをサポートできるITコーディネータの役割は重要性を増していると言えます。
実際の導入効果の声
成功事例をいくつか紹介します。ある企業では、勤怠システムの導入により、勤怠管理の効率化が実現しました。さらに、社員一人ひとりの勤怠状況を細かく把握できるようになり、残業時間の抑制にも寄与し生産性の向上につながっています。
別の例では、データを活用したマーケティングに取り組むことで、従来の紙ベースの手法に比べて、圧倒的に低コストでお客様にアプローチすることが可能になりました。このデジタル化により、効率的かつ効果的にターゲット層との接点を増やすことができ、マーケティング活動のコスト削減と成果の向上を同時に実現しています。
補助金とITコーディネータの連携が生む相乗効果
アンケート結果から、補助金の利用だけではなく、ITコーディネータとの連携が企業のIT導入成功を後押しする重要な要素であることがわかりました。IT導入は、単にツールやシステムを導入するだけでなく、業務全体を見据えた戦略的なアプローチが必要です。補助金はその初期段階を支える重要な要素ですが、同時に導入の専門家であるITコーディネータの支援が加わることで、効果的な導入と運用が実現します。
ITコーディネータは、企業の業務プロセスや組織構造に応じた最適なITソリューションを提案し、その導入と定着をサポートします。さらに、導入後の運用やトラブルシューティング、従業員のITスキル向上にも関与するため、これにより企業全体のパフォーマンス向上が期待できます。企業がIT導入に際して直面する不安や課題を、技術的な面からだけでなく、経営的な視点を持って解決できることが、ITコーディネータの強みと言えます。
まとめ
今回のアンケート分析から、IT導入において補助金の活用は非常に有効である一方、ITコーディネータの伴走支援がより大きな成果を生むことが明らかになりました。中小企業がデジタル化を成功させるためには、単に経済的な支援だけでなく、専門的な知見を持ったサポートが不可欠です。
今後、ITコーディネータの役割はますます重要になっていくと考えられます。中小企業が変化する市場に対応し、競争力を維持・向上させるためにも、ITコーディネータの知見を活用した包括的なサポートが求められるでしょう。
■執筆者
高橋幸司(タカハシ コウジ)
Koji Takahashi
所属
株式会社 東洋 常務執行役員
NPO)ITコーディネータ協会 理事
NPO)ITコーディネータ京都 理事
キャリア
25年以上にわたりIT業界でキャリアを積んできました。ネットワークエンジニアとしてのキャリアをスタートさせ、数多くの中小企業に対しネットワークやサーバーの設計・構築を行い、その後はセキュリティエンジニアとして、様々な事業者に対するセキュリティ対策を担当しました。さらに、クラウドエンジニアとしてAWSの設計・構築、DevOps環境の構築、SaaSインテグレーションなどを手がけてきました。また、FileMakerなどのローコード開発ツールを利用した開発も行ってきました。現在は、上記スキルに加えITC京都およびITCA(ITコーディネータ協会)の理事として、企業支援や教育活動にも尽力。多数のIT関連資格を保有し、幅広い知識と経験で企業のIT戦略をサポートしています。
保有資格
• ITコーディネータ
• 中小企業診断士
• ITストラテジスト
• 公認情報セキュリティ監査人
• 情報処理安全確保支援士
• 米国PMI認定PMP